かなしみ。

観た映画についての短文まとめ

ホーンテッドマンション(ジャスティン・シミエン監督、2023年)

Haunted Mansion, 2023

 ニューオリンズで幽霊屋敷ツアーガイドを営む、元物理学者のベン(ラキース・スタンフィールド)はうさんくさい神父ケント(オーウェン・ウィルソン)の誘いである母子(ロザリオ・ドーソンチェイス・W・ディロン)の住む屋敷に出るという幽霊を調査することに。しかし、それをきっかけに屋敷に取り憑く幽霊たちの脅威に晒されるようになり……というお話。元はいわずとしれたディズニーランドの名物アトラクション。ところどころイースターエッグ的に原作ネタが仕込まれていて、「999人の幽霊がいて、1000人目はあなた」はもちろん、「幽霊はフラッシュ撮影が苦手なのでお控えください」とかトリック肖像画とか鏡とかまあいろいろ出てくる。なかでもオッとおもったのは写真。主人公は量子力学を応用した霊写用カメラを開発して学会を追放されたという設定で、写真の歴史がその誕生から(トリック的な)心霊写真とともにあったという背景、そしてディズニーランドのホーンテッドマンションが視覚的なトリックが満載のアトラクションであることを考えるとなかなか興味深い。『死霊館』的なテクノロジー×除霊×CG異界の潮流も踏まえられている。とはいえまあ欠点は多い。ルックを含めて基本的にはファミリー向けの装いなのだけれど、なぜか主人公の抱えている物語(妻の早逝によって生活と精神が荒れている)が不釣り合いに重くて、そこがちょっと軽快さを阻害している。異界演出は安っぽくした『インセプション』みたいで新鮮味がない。舞台が七割八割館内なのでニューオリンズというセッティングが生かされていない。ジャズも序盤以外あまり効いていない。敵キャラを作り出すために意味もひねりもなく迂遠な因縁。シミエン監督はあんまり「はしたない」演出をしたがらないようなのだけれど、コテコテのギャグをロングのワンカットで素気なく撮ってしまうなどファミリー向けコメディとしてはマイナスに作用している。というか、デイヴィッド・ロウリーの『ピートとドラゴン』といい、ディズニーはマーベル以外でも若手のインディー系監督を大作にフックアップしたがるのだが、どうみてもマッチしていないのだからやめたほうがいいとおもう。主演のラキース・スタンフィールドは相変わらずダウナーかつアンニュイな雰囲気で、あんまりわかりやすいコメディ向きでもないとおもうのだけれど、皮肉な陽性のオーウェン・ウィルソンとならぶとちょっとだけケミストリーが生じる。ほんとうに、ちょっとだけだけど。ラストのアトラクションどおりの愉快な幽霊屋敷の風景をもっと観たかった。こっちのが絶対楽しい。あと幽霊犬が一瞬だけ出てくる。ビーグル。