かなしみ。

観た映画についての短文まとめ

異人たち(アンドリュー・ヘイ監督、2023年、英)

All the Strangers[7/10]

中年脚本家のアダム(アンドリュー・スコット)の部屋を突然、おなじマンションの住民だという見知らぬ男が訪ねてくる。ハリー(ポール・メスカル)と名乗るその男性と惹かれ合うアダム。その一方で、彼は12歳のころに交通事故死したはずの両親と再会し、なつかしの我が家に迎えられる……というお話。
先ごろ亡くなった山田太一原作。わたしは小説も映画も未見。
本作オリジナル要素として主人公にゲイ属性が加えられており、それが物語部分、特に両親との関係に影響を与えている。少年時代のアダムは自分の性的志向を伝えられないまま両親を失ったのだけれど、40歳になって再会していざカミングアウトしてみると、保守的なカソリックである両親の反応は芳しくない。劇中を通じてこの両親が幽霊なのかアダムが作り出した幻なのかはあいまいにされたまま進むのだけれど、両親はあんまりアダムに都合よく迎合してはくれないのですね。
そんな両親とのふしぎな交流が、いっけん全く関係ない感じのハリーとのプロットにもやがて絡んでくる……というとネタバレになるけれど、知らない状態だとラストはけっこうビビる。
言えるのは、アダムはハリーとの関係にしろ復活した両親との関係にしろ最初「見られる人/見出される人」として登場するのだけど、ラストではこの構図が見事に反転するということ。
鏡と顔の映画でもあり、特にアンドリュー・スコットの顔は終始ドアップで映りまくる。こう見ると、そんなに表情に細かいニュアンスの出る役者でもないのだけれど、画面が保たせるだけのパワーはある。
原色や日光のライティングも印象的な映画でこのへんはポール・メスカルが出ていることもあって否が応でも『aaftersun』を想起せざるをえない。流行ってるんですかね。アンドリュー・ヘイは『さざなみ』のころからこんな感じだった気がするけれど。